セピア世界の花

秋らしい暖かい黄昏前の最後の日差しが
部屋に届くと、あっという間に世界は
セピア色。

遅れて届いた荷物に納められていた、
小さなペンダントは、1853年イギリス
バーミンガム製の刻印のある、9金製の
スズラン、もしくはブルーベルの花の
ペンダント。 

1853年といえば、イギリスではヴィク
トリア女王の治世。

しかも初めての万博がロンドンで開催
され、破竹の勢いで工業化が進み、
進化した頃。(因みに日本は黒船来航)

女王を中心とした社交界では、華やかな
舞踏会が開かれ、ファッションはクリノ
リンという膨らんだペチコートを重ねた、
まさにディズニーのお姫様ドレスが
主流の頃。

そんな喧噪を他所に、このペンダントは
いかにもイギリスの質素なカントリー
サイドを思わせる素朴さに溢れ、花に
模られた天然ケシ真珠に、アクセントの
9月の誕生石、サファイアのバランスが、
愛らしい中に少しだけオトナの香りを
感じさせています。

きっと田舎の市居の少女が、それでも
唯一お洒落が出来る、日曜日の教会の
礼拝に、首元まで詰まった少しだけ
膨らみの付いているスカートドレスの
装いに着けて、嬉々として出掛けた
辺りが容易に想像出来るモノ。

黄昏時間の想像は、飛躍に次ぐ飛躍を
重ね時空を超え、トマス・ハーディーの
描いた『ダーバビル家のテス』や
『遥か群衆を離れて』の勝気な主人公
バスシーバの元へ、脳内トリップ。

因みにスズランの花言葉は『幸福の再来』
ブルーベルは『謙遜、節操、変わらぬ心』。

いかにもヴィクトリアンロマンチシズムの
王道です。