今だけは私の箱2

このジュエリーボックスを入手した時、サイドと
裏面に焼けた様な痕があり、使い続ける為には、
その部分をどうしても補修した方が良いと、
熟慮の末に革工房に赴いて、張り替える皮を選び
預けたのですが、出来上がりの報が一向に
届かないまま数か月。

一度だけお伺いをしたら、張られている革が、
まるで紙の様に、余りにも薄く漉かれていて、
その技術を持つ革漉き職人を探すのが最難関で
あったが故、時間がかかっているとの事。

最初、この箱の横から裏にかけてのダメージは
まるで火に炙られた様な、少し焦げた印象で、
大切な宝石箱が何故そうなったのか、何やら
アガサ・クリスティ的ミステリーストーリー
すら想像していた店長ですが、革職人さんに
よると、それは焼け焦げたのではなく、水に
濡れた結果との事。

イギリスの古い家は、雨漏りリスクが高いので
雨水に濡れた結果のダメージに、妙に納得。

扉の内側には、鮮やかなグログランのマリン
ブルーの布が貼られ、この品がイギリスからは
遠い、欧州イタリア辺りで製作された事は、
間違いないと想像します。

もしかしたら、上流クラスの子息令嬢が、
グランドツアーで訪れたフィレンツェか、
ヴェネツィア辺りで注文したモノ⁉

ダメージを補修して再生され、あと100年は
使い続けられる事を保証された美しく雅な箱。

次の持ち主にバトンが叶えば、この仕事の最大
冥利に尽きるかと。