真珠絵巻

ショーケースの中、多くのダイヤモンドが
燦然と輝く品々が多数入れられている
キャリア、数十年ものディーラーさん。

毎回会う度に「そろそろ引退だよ!」と言う
言葉に「えっ!じゃあ次の時に会えないのは
困るから、今回頑張ってコレとコレ頂くね!」
なんて、簡単に罠に嵌ります。

今回は久々大粒ダイヤモンドで打ち止めね
…と思っていた店長の目に、ケースの中で
隠れる様に佇んでいた、真珠とダイヤモンド
のリングに、まさに呼び止められた如くに
気付き、目が吸い寄せられました。

これこれこれ見せて!」の大声に、いつも
眉しか動かさないディーラーさん「あ、それ
19世紀初頭の古い品だよ」。

まるで茹でたて卵の様な風合いのバロック
真珠を花芯に例え、周囲に二重の無数の
花びら。

その花びらの一つ一つには、極小のシングル
カットダイヤモンドが、丁寧にセッティング
され、チカチカと控えめな輝きを魅せていて
裏には見惚れる程のレースの様な細やかなる
金細工。

指に嵌めると、吸い付く様に納まる感じは、
1点ものならではの、腕のいい職人ならではの
ごく丁寧な造りである事が解ります。

先に決めたダイヤモンドは1カラット越えの
オオモノ。

これを足したら…ゾゾゾ~っな金額。

その上から「もう自分も引退だからね~」の
ディーラーの声が届き、最後にこのリングから
「行き先がもう決まっているんだかから、
観念して!」のトドメの囁きが。

「はい観念しました!」やり取り終わって
ディーラーさんの事務所を後にして、すっかり
財布は軽くなりましたが、心と足は多分地上
15cm位浮いていたかも…なある日のシアワセ
店長の買い付け絵巻です。

そしてリングは、日本帰国後3日でお嫁入。「言ったでしょ。
行先が決まっているって!」と囁いたとか。