宵の接客

たそがれの、暮れなずむ空の変わり行くシーンが大好き
というお客様がご来店されて選んだ品は、夕方の空を
切り取ったかの様な偏光ガラスのブローチ。

人間の欲求には果てが無く、自然現象を表すモノを、
最初は天然の石で探し、それが無いなら人工的にでも
造りこもうと挑戦する所に、美しい物を手の中に閉じ
込めて征服してみたいという、純粋な感情を背景に
こうした偏光ガラスが登場したのではないかと考えます。

有名な所では、地中深く銀化現象を起こしたローマン
ガラス、光の色でヴァイオレットからアクアブルーへと
変化するネオジウム、銀箔の上に色ガラスを乗せた
フォイル、龍の吐息とも言われるもの…。

いずれも個性的な面々ですが、全て自然界に現象が
あってこそ誕生した、人工物かもしれません。

自然現象を閉じ込めたこれらを掌で弄ぶ時、記憶の
底に沈む、あの時の旅先で見た夕焼けのシーンが
瞼の奥に見えるのが、まだ再開出来ない現状の中で
少しでも心の慰めなりますようにと送り出した、
昨日夕方の宵の接客です。