大衆黒

長い服装の歴史の中で、黒色がもてはやされたのは2回。

ヴィクトリア時代と20世紀シャネルに始まるもの。

ヴィクトリアンブラックというと、女性たちの漆黒の
装いが、どの史書でも書かれていますが、実はこの時代
黒は、男性のものであったと、仏文学者山田豊子氏は
著書の中で語っています。

そして20世紀を迎え、登場するシャネルに始まる黒は、
それまでの貴族やブルジョワジーを含むエリートの黒とは
対極の大衆の黒であったと。

真っ向から本物に反対したシャネルは、装身具にもその
牙を剥き、多くのイミテーションジュエリーを提案。

『使われているのは偽物のダイヤだから、それは本物の
シャネル』という不思議なロジックが誕生します。

画像はそうした時代に誕生する、黒い素材がポイントの
イヤリング。

それまでは、たれ下がるタイプ以外は大ぶりなものは
見かけなかったのですが、ガラスやメタルを使ったボタン
タイプの大型イヤリングが登場したのは、耳を露わに
したショートカットの女性が登場し、その耳元でそれらは
大胆に存在を主張したことでしょう。

勢いとは面白く、需要が高まるにつけ、デザインや造りに
拍車がかかり、所詮イミテーションでも製造技術の
ポテンシャルは上がり、凝ったテクニックでの表現が
表れます。

右下のイヤリングは、ベースの黒は型ガラスですが、
上に置かれた金属メタルの様に見える部分は、実は
ガラスに乗せたメッキ。

つるりと磨かれた漆黒のガラスの上の、レースのような
メタルという対比が洒落た印象で、数十年この世に
あるものの劣化は見れず、今も繊細で大胆な
デザインで魅了します。